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術中モニタリングについては,原理原則論としての記載は出し尽くされている感がある一方で,実際に手術中にSEPやMEPを用いてみると,多くの制約や実際上の問題点が多く,今まで語られてきた原則論とは大きく外れることが多い.脊髄病変の手術でSEPをモニタリングしていると,わずかな侵襲が及んだとたんに消失してしまって,警告としての役割を果たさないことも多い.また,髄内病変の手術のモニタリングの規範ともいえるMEPについても,手術操作が始まる前から記録できないことも多い.力が保たれている筋肉でもMEPが記録できないことは,MEPが本来反映しているモノシナップス系の活動によらずに,筋収縮が制御されていることを示唆する.また,手術中にMEPが減弱消退しても,覚醒後にその筋肉に麻痺を認めないことが多い.われわれの髄内腫瘍手術例の検討では,偽陽性は警告陽性例の半数以上と非常に多いのが実情であるが,従来の文献や報告でこうした事実はあまり取り上げられてこなかった.運動誘発電位の変化に,術後の筋力減弱がよく連関すると語られたり,あるいはモニタリング指標としての信頼性,有用性が過剰に強調されて語られることが多かった.
背景には,神経機能解剖に対する単純化された誤解がある.すなわち,運動制御の主体が,中心前回から内包,大脳脚,錐体交叉を通って前角細胞に至る,モノシナプティックな系統からなると単純化して捉えているものが多い.このシェーマに解釈のつじつまを合わせている結果,ポリシナプティックな系統,すなわち赤核脊髄路,網様体脊髄路,前庭核脊髄路を介する系統が,大脳からの運動制御に重要な働きをしていることが考慮されていないことが多い.錐体の中を通る軸索線維にしても,脊髄の中で複数のニューロンを経由して前角細胞に接続することが多いこともわかっている.こうしたポリシナプティックな系統へのシフトが術前より,あるいは術中に起こっているときには,モノシナプティックなシステムを反映するMEPのモニタリングの意義にはおのずから限界がある.
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