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術中脊髄モニタリングの歴史と意義
術中モニタリングは,手術に際し電気生理学的手法を用いて神経の機能を観察し,手術操作による神経系の障害,すなわち麻痺の発生を未然に防ぐことを目的に施行される手技の1つである7).体性感覚誘発電位などの誘発電位が記録可能になる以前にはwake up test,すなわち術中に危険な操作が行われた直後に麻酔を覚醒させ,実際に四肢の動きを観察することにより脊髄の機能障害の発生の有無を確認していた.しかし,この方法は危険な手術操作が終了してから麻痺の有無を確認するしかなく,厳密にいえば術中モニタリングとしての機能を満たしていない.これに対し,現在行われている術中モニタリングは,脳や脊髄,末梢神経を電気刺激し手術部位を通過した後の誘発波を,脳や脊髄,上下肢から記録する電気生理学的手法であり,リアルタイムに脊髄や末梢神経の機能の変化を感知できるため,本来の意味での術中モニタリングが可能となった.特に髄内腫瘍摘出術や側弯症,後縦靭帯骨化症など,手術操作により麻痺を生じる可能性が比較的高い疾患では必須の手技であるが,その方法には多くの種類があり,その目的により選択施行されている.本邦では,玉置,黒川,下地らが開発した脊髄刺激-脊髄記録誘発電位(Sp-SCEP)が1970年代初めより実用化され用いられてきた4).本法は刺激も記録も硬膜外電極を使用するのが一般的であるが,玉置らはくも膜下腔に直接硬膜外電極を挿入する方法を考案し,はるかに明瞭な電位を記録している.これに対し,米国ではアイオワ大学の山田らを中心に3),上肢の正中・尺骨神経や下肢の後脛骨神経を刺激し頭皮上で誘発電位を記録する体性感覚誘発電位(somatosensory evoked potential:SEP)が古くから普及していた.また,英国では末梢神経管刺激,脊髄記録による電位の報告が多かった1).このような各国の違いは主としてモニタリングの担い手の相違による.わが国では手術を実行する整形外科医や脳神経外科医,麻酔科医が直接モニタリング法を研究・開発していたのに比し,欧米では主として神経内科医により研究されていたため,実際の術中におけるモニタリング手技が主として電気生理検査技師により施行されていたことが関与している.その後,経頭蓋電気刺激-筋記録誘発電位〔Br(E)-MsEP〕が開発され,初めて運動路のモニタリングが可能となった.現在では,本邦でも米国でもこのBr(E)-MsEPとSEPを組み合わせて,運動路と感覚路を同時にモニターする方法が最も多くの施設で施行されている.
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