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はじめに
運動誘発電位(motor evoked potential:MEP)にはいくつか種類があるが,経頭蓋電気刺激,四肢からの複合筋電図記録によるBr-MEPと脊髄表面からの下行電位記録(D-wave)が術中モニタリングでは最も多用される代表格であろう.術中モニタリングとは,脊髄の運動機能が危険にさらされる可能性のある手術の際に,一定の測定指標を設定し,それが変化したときに術者に危険を知らせて,その先に起こるであろう運動機能の不可逆的障害を回避する作業のことであるが,その目的を果たすためには,モニタリングに用いる指標が以下のような条件を満たしている必要がある.
①モニタリング指標の変化が,実際の運動機能の悪化を示唆するか?
②全身麻酔下でもある程度安定した連続記録が可能か?
③指標の変化が,運動機能の不可逆的な悪化に先行するか? つまり,十分鋭敏で,物事をまだ回避行動が可能な時点で障害を検知できるか?
これらのうちどの要件が欠けても,運動誘発電位はモニタリング指標としての機能を果たさない.残念ながら運動誘発電位においては,Br-MEPもD-waveもこれらの要件を十分満たしているとは思われず,術中モニタリング指標としての有用性は,かなり限定されたものになると考えている.もちろんこれは,モニタリングの有用性そのものを否定するものではなく,要するにBr-MEPがモニタリングの道具としては敏感に反応して早く消失しすぎることだけが問題なのであり,逆に手術の際にBr-MEPに変化がまったくみられず安定して記録できている場合には,術者は術後の運動機能の障害を懸念する必要がまずない(つまり,偽陽性反応が少ない)ので,心の平安を保ちつつ作業を進めることができるという大きなメリットがある.こういう意味で運動誘発電位を用いた術中モニタリングを行うことそのものには十分意義がある.ただ,このことを念頭において,術中に術者として身に覚えもないBr-MEPの反応消失に遭遇したときに,我を忘れて自暴自棄になりその後の判断を決定的に誤ることだけは絶対に避ける必要があるというところが大切なポイントである.
以下では,上記3項目のそれぞれについて検討を加える.
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