特集 椎間板と痛み
特集にあたって
米延 策雄
1
1滋慶医療科学大学院大学
pp.13
発行日 2015年1月25日
Published Date 2015/1/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.5002200003
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巷間に腰痛に関する誤解は少なくない.「腰痛の85%は原因不明」とか,「腰痛の原因は頭にある」は最近のマスメディアやネットに出てくる誤解,曲解の例である.前者には,特異な治療法が適応となる可能性がある腰痛は15%くらいであり,それ以外は原因を詮索するよりも治療や不安解消を優先しようとの意図が背景にある.後者では,症状(あるいは疾病)は社会に投影されて病気となる.つまり,生物学的に損傷をもつだけではなく,病み苦しむ(労られ慰められる)人と認められることで患者となるとの見方を示したものである.しかし残念ながら,一部のメディアは「原因不明の85%」や「心理的」にスポットライトを当て,かえって不安や混乱が増しかねない状況である.
誤解,曲解の背景には,われわれが腰痛の病理病態を明確にし得ていないことも一因としてある.腰痛が発生する組織として,筋・筋膜,椎間関節,骨,そして,これらの中では比較的新しいが,椎間板が挙げられてきた.椎間板腰痛起因説が唱えられ始めて以降,多くの研究が椎間板に注がれた.しかし,椎間板は腰痛(あるいは頸部痛)の暗黒大陸といわれるように,依然として不明な点が多い.感染症や腫瘍性疾患の病理病態を明らかにしてきた20世紀に進歩した手法と思考法,たとえば病理学,生化学あるいは画像診断学は,痛みという感覚や情動を明らかにする方法としては未熟であった.
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