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脊椎(脊髄)外傷という括り方をすれば,古くからある傷病であろう.社会的動物であるヒトが食料を得んがために集団で獲物を追い,中には誤って脊椎に損傷を負った者がいたことは想像に難くない.とはいえ,脊椎・脊髄損傷には時代性がある.産業化社会に至り労働に起因する傷害としていくつかの病態・疾患が社会的にも認知され始めた.さらに,産業の発展により力をもつことになった国民国家は市民を兵とする大規模な戦争を惹き起こし,結末の一部として多数の脊髄損傷患者を生むこととなった.人はまた自分の身体能力をはるかに超える速度の移動手段,自動車を発明した.それが一般化した自動車社会に至り,脊椎の高エネルギー損傷を負うこととなった.そして一方では,いわゆるむち打ち損傷関連疾患に代表される,いまだに病態が明らかでない損傷を経験することにもなった.そして,さらに社会は発展し超長寿化し,人類が今までに経験したことのない高齢社会に入りつつある.その中で,転倒で生じる軸椎骨折,骨傷の認められない頸髄損傷,強直した脊柱の骨折,骨粗鬆性椎体骨折やそれに起因する成人脊柱変形など知られていた傷病であるが,その数や広がりが今までの様態とは異なってきている.
しかし,外傷治療の原則は変わらない.損傷の加重を防ぐ現場での適切な処置,リハビリテーションを含めた早期治療,そしてその目的は家庭復帰,社会復帰である.それぞれのステップで変わらない原則があるが,治療の考え方の変化や新しい技術もある.さらに大きくは,脊髄損傷は回復しないとのセントラルドグマがiPS細胞など再生医療技術により変えられようとしている.それを踏まえて,本特大号では脊椎・脊髄損傷に関する項目を網羅した.実際には経験することが少ない現場での対応に始まり,多発外傷を伴う脊椎損傷の治療の進め方,そして各論としての部位ごとの損傷,また複雑な病態を背景とする損傷,治療の重要な要素であるリハビリテーション,そして脊髄機能回復への試みまでである.さらに,脊椎・脊髄損傷の相当数が交通事故や労働災害など賠償性傷害の側面をもつ.患者の障害評価は患者視点だけでは済まず,professionalismが問われるところでもあり,老婆心からこれも項目に加えた.これを通読していただくことで脊椎・脊髄損傷に関する知識や考え方をup-dateしていただけると考えている.
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