特集 地域精神保健活動―医療の質とその周辺
触法精神障害者問題と精神科医療改革
武井 満
1
1群馬県立精神医療センター
pp.97-101
発行日 2004年2月1日
Published Date 2004/2/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401100558
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日本の刑事司法システムと精神科医療
1. 医療と司法:精神保健福祉法通報制度の問題点
一般的に,物を壊したり,夜中に大声を出したり,人に危害を加えたりなど,社会的に問題となる違法行為を行った者がいたとする.周囲の人たちによる対応では手に負えなければ,警察官が呼ばれることになる.その場合,警察官が取れる対応は「保護」か「逮捕」かの2通りしかない(図).
まず「逮捕」する場合であるが,逮捕するには犯罪として立件できる見込みがなければならない.犯罪として立件するためには,関係者の調書をとるなどの確かな証拠を集めなければならない.検察庁に送致されれば,検察官の調べがあり,裁判になれば,弁護士もいる.曖昧な内容では送検はできない.仮に非常な労力を使って送検したとしても,検察官は「こんな内容では起訴できない」と言うかもしれない.日本では起訴できるのは検察官だけであり,検察官は裁判で確実に有罪にできる被疑者のみを起訴するのが原則である.これを“検察官起訴独占主義”,“起訴便宜主義”という.すなわち日本では,逮捕されて起訴され,裁判にかけられるのは実はほんの一握りの犯罪者だけである.逮捕ができなければ残りは「保護」されるということになるが,警察は受け皿機関ではないことから,説諭して家に帰せる場合以外には,何らかの形で保護した身柄の処遇を考えなければならない.警察官職務執行法では24時間,裁判所の許可があれば5日間は保護房に保護できることになっているが,保護房の不足や人員不足,人権上の問題などを理由に,24時間さえも保護できないのが現場の実態とされている.
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