増刊号 急性期における疾患別作業療法
第2章 急性期脳卒中患者に対する作業療法
8 急性期から回復期,生活期への移行に対して作業療法士はどのようにかかわるべきか—新しい実在論と行為の目的の相互理解
井上 順一
1
Junichi Inoue
1
1福岡東医療センター
pp.847-851
発行日 2023年7月20日
Published Date 2023/7/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.5001203465
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
はじめに
本増刊号における筆者の課題は,「脳卒中の回復期,生活期を見据えた急性期からの作業療法の考え方,取り組み」について述べることであった.急性期のリハでは,終末期,重複障害,意識障害等,予後予測が難しい方に出会うことが少なくない.
医師の砂原は1980年(昭和55年)の著書1)において,リハは尊厳の復権(p59),人権の回復(p89),存在の回復(p147)であると述べている.加えて,“社会と接触することさえ困難な最重度の障害者の層の存在を見逃すわけにはいかない”(p211)1)と指摘している.
たとえば,この書では,脳卒中発症から約8カ月,意識がなかった片麻痺と失語があるEさんが紹介されている.Eさんには小さなお子さんがおられたが,後にEさんは“子供の洋服に小さいボタンをつけることも,歯をつかってできるようになった”(p5)1)という.
筆者は砂原の考え方には,自分の思いを伝えられない人々を理解するための存在論があると捉えている.一方,新しい実在論では,“意味はお互いの行為の目的を私たちが相互に理解(または誤解)することに基づいて人間社会に生じる”(p79)2)と考えられている.
そこで,急性期からの作業療法の考え方,取り組みを述べる際,OTによる脳卒中の連携と協力には,どのような「行為の目的の相互理解(以下,相互理解)」があったかを確かめたいと考えた.そして,OTの実践に砂原の考え方を加えて考察し,新しい実在論を交えてまとめた.
Copyright © 2023, MIWA-SHOTEN Ltd., All rights reserved.