わたしの大切な作業・第43回
空白をつくる
橋本 麻里
1
1永青文庫
pp.1337
発行日 2021年11月15日
Published Date 2021/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.5001202758
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この一文を書き始める前、ベランダに面したソファで、取り込んだばかりの洗濯物を畳んでいた。小さな一人掛けのソファを、家人は読書用に、私は取り込んだ洗濯物の置き場に使っている。ソファに座るのではない。乾いた洗濯物を座面にこんもり積み上げるのだ。私自身はといえば、ソファの隣に置かれたこれまた小さな踏み台の、読みかけの本が積まれた天板の隅に腰を掛けて、洗濯物を畳んでいく。畳むのは自分の膝の上だ。畳んだものは背後の書棚の空きに置いておいて、最後にまとめてクローゼットにしまう。
共働き家庭に育ったため、家事の手伝いは子どもの頃からある程度はやっていた。もちろん遊ぶ方が——といっても私の場合、読書一択なのだが——楽しいに決まっているが、といって苦でもない。中でも洗濯物畳みは、いつ、どんな時でもやりたい、他人に譲りたくないほど好きな作業だった。そして今もその感覚は変わらない。
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