発行日 1954年6月15日
Published Date 1954/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661909571
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病気などおよそしたことのない私が,どういう調子の狂いからか思いがけない事態を発生して約2週間程,病院のベツドに横たわる身分となつてしまいました。こんなのはまさしく“鬼のカクラン”とでもいうものなのでしよう。病気は身体の一部,下肢であつたために,万止むを得ず,ベッドに静臥しなくてはならず,上半身を斜めにおこして質のよいスプリングと軟い羽根枕の感触に快く包まれながら,ボンヤリする時間をたのしんだことでした。
1日1回ペニシリンを注射される時と,放射線治療をうけている時と何回かとりかえられる湿布の手当の時だけがわずらわされる時間であつて,あとは,全く自由の時間,常日頃は,晝となく夜となく仕事に忙殺されている身にとつてきめられたすることのないということは何といつても勝手が違い,かえつて落つかない思いの日が最初の一両日にはありましたが,次第に静かさになれるにつれ,自分の仕事をかえりみる余裕ができて,客観的にそれをながめて,正しい判断を見出したり,次の段階への思索にふけつたり,長い一日も決して長くはなく,思考する機会となつたことは幸せでありました。
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