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はじめに
私たちは,「できないことをできるように,できることをもっとできるように」,「生活を楽に人生を楽しく」を活動理念に,地域で生活をしている障害者,高齢者と共に自立した生活を目指して支援を行っている.脳卒中片麻痺となった方々(以下,片麻痺者)の支援に入ることも少なくはない.要支援1〜要介護2の軽度介護者の中には,家事動作の再獲得を目指す片麻痺者もいる.重度介護者は家事動作よりもADLの獲得が優先されることが多い.また,発症から長期間経ち,すでに家事動作を再獲得し,私たちに新たに知恵を授けてくれる方々もいる.私たちはこの方々を,支援を受ける側だけはなく,私たちを媒体として支援する側の方としても捉えている.
生活期では,地域で,自宅で生活をしていくための知恵や工夫,そして,悩みや苦労の本質を目の当たりにする.片麻痺者がADLを獲得するにあたり,「教科書通りにいかない」,「教科書には書いていない」,「前例がない」等ということはめずらしくない.これは当然のことである.片麻痺者の状態はさまざまであり,加齢や高次脳機能障害の有無等の要因が加わればなおさらである.発症からの期間,年齢,家族構成,利き手,生活様式,日ごろからの活動量等の背景も十人十色である.片麻痺者の家事の獲得では,残存機能を活かした動作の獲得に加えて,環境や道具の使用も重要である.どうしたら,その方が求める生活,自立した生活を営めるようになるのか,利用者,関係者と共に試行錯誤し,解決策を見いだしていくことになる.獲得までに長期間要することもある.そこに,OTは生活をみる専門職として携わるのだ.時には直接的に,時には間接的に,そして時にはコーディネート役として人と人をつなぎ合わせる役目を担うこともある.「生活の中でできないことができるようになり,生活が楽に,人生を楽しく」を,さまざまなかたちで支援していくことができるのがOTである.その経験や体験をまたどこかで,誰かのために活かすのだ.一人で問題を抱えず,OT同士のコミュニティを活かしていくことも意味あることである.
本稿では,生活期片麻痺者の家事動作の特徴や支援方法,移動動作との関係性,調理・洗濯動作の事例を述べる.さらに,家事動作を獲得し,生活期を過ごしている片麻痺者C氏からのメッセージも,この場をお借りして届けたい.
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