増刊号 脳卒中の作業療法 最前線
第3章 支援技術Ⅱ 急性期から回復期の個別性を重視した介入(事例報告)
1 —高次脳機能障害がある方への作業療法②プッシャー症候群—プッシャー現象に対する評価と支援
鈴木 誠
1,2
Makoto Suzuki
1,2
1東京家政大学
2東京家政大学大学院
pp.845-848
発行日 2021年7月20日
Published Date 2021/7/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.5001202621
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プッシャー現象とは
プッシャー現象とは,脳の器質的損傷によって体幹を非脳損傷側の方向へ押す状態をいう1)(図 1).対象者の傾いた体幹を他者が他動的に正中位に矯正しようとすると矯正に抵抗する点が,他のバランス障害とは異なる.プッシャー現象を有した対象者では,生活自立度が顕著に低下することが指摘されている2).
プッシャー現象の発生率は,脳損傷の急性期において9〜63%3,4),回復期において16〜21%4,5)と報告されている.損傷半球による発生率の相違については,右半球損傷で多いという報告3,4)と半球間で差がないという報告6)がある.また,プッシャー現象に関与する脳領域として,島,中心後回,上側頭回,下頭頂小葉等が挙げられている7).中側頭回の病巣が視覚による主観的な鉛直定位に関連し,上側頭回が視覚と触覚の複合感覚による主観的な鉛直定位に関与することが示唆されている8).これらの鉛直定位に関する脳損傷に起因する姿勢制御の誤学習がプッシャー現象の発症と関連する可能性が想定されている9).しかし,プッシャー現象の正確な機序は明らかではない.
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