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はじめに
脳出血や脳梗塞等の脳血管障害や頭部外傷等の脳損傷者を対象とするリハの領域では,要素的な「言語能力」への障害である失語症状とは別に,「コミュニケーション能力」という用語を用いて症状を説明する場合がある.コミュニケーション能力には,言語・非言語の媒体にかかわらず,場面ごとの状況や文脈的手がかり,経験的知識,表情や身振り等のやり取りに対応したものが含まれる1).われわれがかかわる脳卒中患者の中には,突然の発症によりコミュニケーション能力の大半を失うことによって,これまでの人関関係や個人特性等を失ってしまう方も多く,その心理的葛藤は深刻な問題である2).
一方で,われわれ健常者の日常においても,同じ言語を用いても個人の表現方法によっては,まるで違った意味で捉えられ,良好なコミュニケーションが成立しない場合がある.コミュニケーションの目標は,「自分と他者との間で互いに理解し得るものをつくり上げること」であり,常に,“自分は今その方とうまくコミュニケートできているか”と考えていく必要がある.相手を知り,相手の反応をキャッチし,キャッチした自分はどう反応して,どう表現していくのか.そんな“やり取り”の中にコミュニケーション支援の核となるOTの意義が隠されているように思える.
作業療法の特徴として,矢谷3)は,①心と身を同時に同等に重要視する,②治療的自己活用(the therapeutic use of self),③作業を療法として扱うを挙げている.今回は,この特徴を念頭に置きながら.脳卒中患者の臨床像を踏まえ,対象者との関係で配慮すること,コミュニケーション支援のために作業や自己をどのように活かすか,さらにそこから生まれる相互作用について考える.
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