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はじめに
私たちが日頃何気なく行っているさまざまな場面でのコミュニケーションが,重度の障害のある人々にとってはなかなか困難な場合が多くある.
なぜ,うまくコミュニケーションがとれないかの原因に関して,発信側の障害による問題(例えば,はっきりとした口調で話すことができない,一生懸命に話そうとすればするほど思うようにしゃべれないなど)であると決めつけることは容易である.しかし実は,受信側の問題,すなわち発信側が懸命にシグナルを送ろうとしているのにもかかわらず,それを読みとるための手段,あるいは読みとろうとする心の準備が受信側にないことによる場合が多い.
さらに,立場を逆転して考えれば,こちらの言うことをよく理解してくれないと決めつけるのは容易だが,実は,相手にわかる方法で,相手のペースに合わせてコミュニケートする手段を単にもち合わせていないのが原因かも知れない.
コミュニケーションがうまくできないということは,QOL(生活の質)の低下にもつながりかねない.
コミュニケーションができるようになるということは,単に障害をもつ人自身にとって意味があるだけではなく,それを取り巻く人々にとっても,楽しい時間を,深い共感を,より親密な人間関係を,与えてくれる.
障害の具体的な例としては,言語障害を伴う重度脳性麻痺,人口呼吸器を装着して会話が困難な筋委縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis;ALS)や進行性筋ジストロフィー(progressive muscular dystrophy;PMD),さらには高位頸髄損傷による四肢麻痺など,その他さまざまな障害がある.
コミュニケーション支援機器はこのような障害のある人々に対して自己表現を支援する,他者との関係付けを行うことを目的として生み出された機器である.
読者のなかには次のような経験があると思う.頭のなかだけで一生懸命考えてもなかなか考えがまとまらない.それが,鉛筆で紙に自分の考えを書き出すことで,今まで整理できなかったことが徐々に明確になってくる.それにより,さらに考えを発展させていくことができる.
障害のある人々においても,同様なことが言える.コミュニケーション支援機器を利用することは,まさに,この紙と鉛筆を手に入れることに相当する.また,不満や不安がうっ積している人が,自分の心の内をからだの外にはきだすことで,ずいぶんと楽な気持ちになれるということをしばしば目にする.
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