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はじめに
中枢神経障害患者に対する作業療法評価は,一般的な作業療法評価と同様に,情報収集,面接,検査,観察で構成される.対象者の脳画像や主訴,スクリーニングテスト等の各種機能障害評価,生活場面の観察から得られた情報を組み合わせて目標設定や支援の選択を行う.
脳画像情報の療法士の活用として,阿部1)によると2つある.1つ目は,損傷領域から出現する可能性のある障害を把握することである.対象者に対面して直接評価する前に障害を予測し,評価をもれなく効率的に進める方法である.2つ目は,観察した事象の出現メカニズムを理解し,事象に関与している症候を把握して支援プログラムを立案するための情報源とすることである.療法士が脳画像を見る目的は,医学的な診断をすることではなく,リハの評価および支援に活用することである1).よって,療法士には,脳画像とその他の評価情報を関連づける能力が必要となる.とりわけOTは生活行為(作業)を支援する専門職であるため,生活場面の観察評価と脳画像を関連づけることが重要となる.生活場面の観察では,生活障害の有無や自立度の評価だけでなく,脳損傷による機能障害がどのような生活障害として顕在化しているのかを評価し,脳画像情報と関連づける能力が求められる.
現状の生活場面の観察評価では,Functional Independence MeasureやBarthel Index等,生活障害の有無や自立度を評価するものは複数存在するが,生活動作の自立を妨げる原因を評価する標準化された評価法は少ない.特に,生活を妨げる高次脳機能障害の観察評価は困難で,観察評価から得た情報を運動麻痺や体力の低下によるもの等と安易に理由づけし,高次脳機能障害の存在を見過ごしている場合が多いとの指摘もある2).そこで,国内外における生活場面観察から高次脳機能障害を評価可能な標準化された観察評価を検索した(表 1)3〜13).表 1を見ると,注意障害や半側空間無視,失行等,特定の高次脳機能障害に焦点を当てた観察評価が多い.また,認知関連行動アセスメント(CBA)やCognition-Oriented Performance Evaluation(COPE)は,全般的な高次脳機能障害を評価できるが,生活場面と直接対応していない評価である.よって,機能障害がどのように生活障害として顕在化するのかを評価する目的としては,適していないと考えられる.
Árnadóttir13)やGillen14)は,ADLの自立度およびその自立を妨げている全般的な神経行動学的障害を同時に観察可能な唯一の評価法としてThe ADL-focused Occupation-based Neurobehavioral Evaluation(A-ONE)を挙げ,その有用性を述べている.もともとは,Árnadóttir OT-ADL Neurobehavioral Evaluationという名称で開発されてきたが,近年は前述の用語と併用されA-ONEと両者ともに呼ばれている.神経行動学で定義される行動とは,神経学的機能を反映するすべての行動であり,種々の課題を行うために必要な神経学的心身機能を含んでいる.具体的には,知覚,認知,情動等の中枢神経系での処理,運動や感覚のような異なる行動学的反応を含む15).つまり,A-ONEはADL観察を通して神経行動学的障害(運動障害や感覚障害,高次脳機能障害)を網羅的に評価できる方法である3).
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