花信風
「ついで」の親切で築き上げるセーフティネット
小川 さやか
1
1立命館大学
pp.1107
発行日 2018年10月15日
Published Date 2018/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.5001201463
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中国広州市と香港には、廉価な中国製品を仕入れて母国に輸出することで一財産築こうとする交易人が、世界各地から集まる。私は、タンザニア出身者の交易活動を調査している。彼らの中には中国語はおろか、英語すら十分に操れない者も、現地の文化や慣習の知識をもたない者も大勢いる。生き馬の目を抜く中国市場へと果敢に乗り出す彼らはたくましいが、時として無謀な挑戦にもみえる。実際に交易人たちは、「中国で詐欺に遭って一文無しになった」といった苦労話を語ってくれる。それらの苦労を乗り越えることができたのは、中国や香港で偶然に出会った同胞の助けによる。彼らはいつも「中国にいる同胞がきっと助けてくれる」と自信満々に語る。
私は「誰かはきっと助けてくれる」という彼らの信念が不思議だった。もし私が異国で窮地に陥って日本人の同胞に出会ったとして、彼らは私を助けるだろうか。助けてくれるかもしれないが、無謀さをとがめられるのではないかと不安になるし、何より私自身が他者に迷惑をかけることに躊躇してしまう。
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