連載 作業療法を深める ①フィンランドの高齢者福祉【新連載】
フィンランドの高齢者ケア政策と老いのかたち
髙橋 絵里香
1
Erika Takahashi
1
1千葉大学文学部文化人類学講座
pp.1312-1315
発行日 2016年11月15日
Published Date 2016/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.5001200767
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ロッタの在宅生活
2013年夏.私はフィンランド西南部の自治体「群島町」註)を訪れていた.この町で私は2001年から断続的にフィールドワークを行っている.文化人類学,つまり文化や社会の多様性に注目する立場から,老いや社会福祉制度について考察することが私の研究目的である.これまで町内の介護施設や訪問介護チームといった行政のケア部門,教会や赤十字といった第三セクター等,さまざまな場所を巡ってきた私が,初めてOTの仕事に本格的に同行したのがこのときであった.案内してくれたリディアは,町立病院の高齢者ケア部門と医療部門の双方に所属するOTである.
リディアと町立病院の入院病棟を歩いていたところ,彼女は私に断りを入れて,とある病室に入っていった.糖尿病の悪化によって片足を切断したばかりのロッタという80代女性に,新しい着圧ソックスを渡しに寄ったのだ.もう片方の足は先に切断されており,さらに左半身が麻痺しているため,これで動かすことのできる四肢は右手だけになったのだという.私は単純に,術後の経過が良好であれば,ロッタは入院病棟から長期療養型施設へと移動するのだろうと考えた.フィンランドにおいて家族介護はあまり一般的とはいえないし,ここまでADLの程度が低ければ,介護施設への入居が速やかに認められると予想されたからだ.ところが,群島町の在宅介護サービスを調査する中で,私はその後も何度かロッタに遭遇することとなった.
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