- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
事例提示
患者:Aさん.60代後半,男性.
診断名:前立腺がん.胸腰椎に骨転移あり.
経緯:両下肢のしびれが出現し,他院でTh3-5椎弓切除術,硬膜外腫瘍切除術を施行し,20日後に芳珠記念病院(以下,当院)転院となった.30日後に入浴以外のADLは自立したが,外泊練習後「何をして過ごしていいかわからない」と退院後の生活への不安を語り,自宅退院後も外来リハ継続となった.
外来リハ初回評価:認知機能,上肢機能に問題なし.下肢はTh10以下の筋力低下,感覚障害を認める.病的骨折のリスクは高く,体幹回旋・屈伸動作の制限があった.移動は屋内ピックアップ歩行器,屋外は車いす自走.入浴は妻の見守りのもと実施していた.病前は認知症の母,妻,息子との四人暮らしで,保育園の園長をしており,友人と自動車で外出することを楽しんでいた.
経過①目標を共有した時期:Aさんは「生活に慣れ,自宅でできる役割がほしい.杖で歩けるようになって職場に復帰したい」と希望し,妻は家事に対して「心配だが,やれることはやってほしい」と話した.Aさんは料理に興味があり,「教えてほしい」と意欲的であった.そこで,「自宅での生活に慣れ,家事,料理と新たな役割をみつけて実行する.交通手段を検討し,職場復帰や仕事以外にも1人で外出する」という目標を共有した.
経過②職場復帰,調理動作の獲得を目指した時期:職場からの復帰依頼も強く,週に1〜2日,妻の送迎で4時間の勤務を再開した.職場の行事や忘年会,友人との食事等,外出機会が増加した.調理では,転倒に対する妻の不安もあり同席を依頼した.練習後,Aさんは自宅でレシピを調べ,簡単な料理を自主的に取り組むようになった.しかし妻からは,調理は趣味程度にして,できるだけ仕事に行ってほしいと希望があった.
経過③自動車運転に向けて介入した時期:自宅生活に慣れ,「車の運転をして,自由にどこでも行きたい」という希望が強く聞かれるようになった.下肢の表在・深部感覚障害が残存しており,OTはAさんの運転再開は危険であると考えた.そのため,手動運転装置やタクシー等の手段を提案したが,「それならいい」と否定的であった.そこでAさんの思いに沿うべく,自動車運転シミュレーションを実施したが,運転は危険と判断された.その数日後,呼吸状態が悪化し,播種性血管内凝固症候群と診断され当院入院となった.
経過⑤現在:鼻カニューラをつけ,ベッド上や車いすで過ごしている.排尿時は尿瓶,排便時はポータブルトイレで自立していたが,起き上がりや移乗等の労作時にSpO2が80%台まで低下し息切れがみられた.
入院から数日後に「卒園式に出たい」と強く希望された.卒園式当日は,妻・息子も付き添い参加することができた.園長職は辞することになり,園児や職員から花束や写真,メッセージをもらい帰院した.
その後も呼吸状態は不安定で,「1カ月ほどで家に帰れると思っていたのに情けない」と悲観的な発言も聞かれている.現在は「自由にどこでも行きたい」と院内や屋外の散歩を希望されており,リハ時間に車いすで屋外へ散歩をしている.また,妻や友人と散歩が行えるよう,酸素ボンベを使用した車いす移動の方法やパルスオキシメーターの見方を指導し,リハ時間以外にも散歩を行っている.Aさんの次の目標は,病院外への散歩や,保育園に行き園児たちと遊ぶことである.
Copyright © 2016, MIWA-SHOTEN Ltd., All rights reserved.