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毎年,5月に行われる日本作業療法士協会の代議員総会に出席すると,作業療法士を目指す若者が少ないことを危惧する声が必ず挙がる.そして作業療法士の認識度が低いことが指摘され,広報活動をもっと積極的に行ってほしいと要望が出る.特に中学生や高校生が受け入れやすい漫画やTVドラマ,映画等で作業療法士を主人公にした物語をつくったらどうか,というような内容の提案が何人かの代議員から挙がる.確かに各大学や養成校の理学療法学科と作業療法学科への応募数,受験者数では大きな差があるので,作業療法士に比べ理学療法士の知名度は高いと想像できる.
作業療法士の知名度が低いことを憂うるときに私自身が反省しなければならないことがある.3年前の話だが,家族みんなでの夕食時に,中学1年生の一番下の娘が私に「お父さんってリハビリの訓練士だよね.だからお父さんならわかると思って訊くんだけど,作業療法士って知ってる? リハビリ関係のお仕事らしいんだけど,私のお友だちが将来そういう仕事になりたいなあって言っているんだけど,お父さんの病院にも作業療法士さんっているの? いたら見学とか頼めるのかなあ」と話しかけてきた.私が心の中で「お父さんが作業療法士だよ」と思いながらも,ちょっとショックで言葉を失い,あっけに取られていると,それを聞いていた妻と年老いた私の母が顔を見合わせ,次の瞬間2人で大笑いしだした.そして「あなたはいつも子どもに曖昧なことを言っているからこうなるのよ」と私にダメだしが入った.その通りなのだ.私は自分の職業を人に伝えるときに昔から「リハビリの訓練士をしています」と簡単に表現してしまい,きちんと「作業療法士」と名乗ることをしていなかった.親戚のおじちゃんおばちゃんをはじめ,近所の人たち,ましてや自分の子どもたちにきちんと話をしたことがなかった.正直にいうと私の心のどこかに「(作業療法を)説明するのが面倒くさい」,「(作業療法を)説明してもわかりにくいだろうな」と勝手なあきらめがあったのは否めない.私は見学会や説明会等で中・高校生や一般の人たちに広く作業療法の普及・啓発活動をしてきたつもりだったが,社会の中に溶け込むような広報活動ではなかったのではないかと反省させられた.この出来事があってから,できるだけ自分の職業を紹介するときに「作業療法士というリハビリテーションの仕事をしています」というようになった.
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