連載 おとなが読む絵本——ケアする人,ケアされる人のために・105
ファンタジーの世界で遊ぼうよ
柳田 邦男
pp.192-193
発行日 2015年2月10日
Published Date 2015/2/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1686200132
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私が座右に置いている絵本や童話の1冊に,『ちいさなちいさな王様』(講談社)がある。作者はドイツのアクセル・ハッケ,絵はミヒャエル・ゾーヴァだ。ゾーヴァのシュールな挿し絵は,住宅地の道路にジェット戦闘機が駐機していたり,背広の胸のポケットにちいさくなった王様が顔を出していたりといったぐあいに,意表を突く奇抜さがあって,一度見たら忘れられない強烈な印象を残す。10年余り前のことになるが,ゾーヴァの絵本や画集を集めて刺激的な絵を楽しんだものだった。哲学的な意味がこめられている絵が多いので,こちらの脳内の言語機能も活性化する。
そして,作家ハッケによるちいさな王様の物語と王様の語る言葉が,現代への鋭い警句の意味を含んでいて,ぐいぐいと引きこまれるのだ。ちいさな王様の国では,みんな生まれた時から身体も知能も大人になっていて,どんどん仕事をこなしていくが,年月が経つうちに身体はちいさくなっていき,多くのことを忘れ,仕事もできなくなっていく。
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