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Key Questions
Q1:就労支援分野における発達障害者の状況とは?
Q2:発達障害者がもちやすい職業意識の特徴とは?
Q3:発達障害者の就労支援におけるOTの役割とは?
はじめに
今日の保健医療福祉領域において,発達障害の診断を受けた,また行動特性により発達障害の可能性が疑われる対象者への支援の必要性が唱えられている.文部科学省の調査によると,自閉症・情緒障害特別支援学級に在籍する児童生徒数は,2007年度(平成19年度)以降,毎年,約6,000人ずつ増加していると報告されている1).また,児童生徒の対応困難な状況に対して,学校教育の通常学級においても,学級規模を小さくすることや複数教員による指導等の方法の工夫改善を進めることが必要であると謳われている2).学校教育が終了し,青年期になってからも支援が継続して必要であること,またはそれまで支援を受けておらずとも就労等の場面から社会適応が困難となり,初めて支援が必要となる対象がいることは容易に想定される.発達障害では,もともとの障害特性による主症状に他の随伴症状を伴うことがあり,さらに環境要因が加わることで抑うつ状態や不安の高まり等,二次障害としての精神症状が出現することがある.すなわち精神症状に対しての受診をきっかけとして,発達障害が明らかとなり,その時点から専門的支援が開始されることも少なくない.
筆者らが活動する栃木県県北圏域は,人口約22万人,那須塩原市,大田原市,那須町の2市1町から成る圏域である.NPO法人那須フロンティア(以下,当法人)は,1999年(平成11年)10月に設立され,「メンタルヘルスを中心とした豊かなまちづくりへの寄与」を目的に,精神障害者の地域生活支援に関する事業を行い,地域で生き生きと暮らせるような活動を提案していくとともに,地域におけるメンタルヘルスの問題に取り組むことを試みてきた.その考えに賛同した参加者・協力者は,近隣の関係機関に勤務する医師,OT,精神保健福祉士等の専門職,患者家族,企業(飲食業,農業,建築業等),行政職員,地域住民,ボランティアで構成され,さらに約300人の後援会員の継続的な支援を受けて,さまざまな事業を運営している.
事業の一つである就労支援事業所喫茶店ホリデー(以下,ホリデー)は,当法人設立と同時に運営をはじめ,約15年経過している.設立当初は小規模作業所として,その後,2003年(平成15年)より小規模通所授産施設,2008年(平成20年)より就労移行支援事業へと沿革し,現在に至る.当事業所は,喫茶店を運営しており,「就労するための技術・能力を身につける機会を提供する就労支援事業所」としての側面と,「近隣住民の方々が気軽に訪れることができる喫茶店」としての側面をもつことをコンセプトに運営している.つまり,通所する障害者が「訓練を行う通所者」としての立場と,「喫茶店スタッフ」として勤務する立場と,両面を意識化できるように支援している.また近隣企業(飲食業,農業,製造業等)の協力もあり,職場体験実習もサービスの一つとして積極的に取り組んでいる.職員の配置としては,OT 2名,PSW 1名,喫茶店職員2名により構成されている.その他,近隣の医療関係者や当事者,その家族等,ボランティアの方々にも運営の協力をいただいている(図1).
当法人の障害福祉サービスに基づく2施設(就労支援事業所,相談支援事業所)において,開設当初より精神科を受診する方の相談が多いが,ここ数年では発達障害者の利用数が増加傾向にある(図2).
本稿では,発達障害の診断がある方について,ホリデーでの就労支援の取り組み,OTとしての役割を紹介したい.1事例は,発達障害の診断後,医療機関により心理教育を受け,その後さまざまな支援機関を利用することを繰り返し,自らの障害特性を過剰に意識した対象者である.もう1事例は,発達障害の診断を受けた後も,自身では障害特性に関してはほとんど意識せず生活していたが,就労場面を中心として具体的な行動場面を経験することにより徐々に認識していった事例である.この事例の支援経過を振り返り,同様の状況に置かれた対象者の支援への一助となることを目的とする.
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