- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
オピオイドは,強力な侵害受容体からのシグナルに対して自律神経系の反応(頻脈,血圧上昇など)を抑制する。手術時の全身麻酔に他の麻酔薬と併用する,いわゆるバランス麻酔に用いることで,吸入麻酔薬や静脈麻酔薬の使用量を抑えることが可能となる。また,術後の強い急性痛に対しても非常に有効である。さまざまな作用時間や力価のオピオイドが開発されたこと,投与経路も経口,経静脈,経皮などさまざまなものが開発され,また安価で製造が簡単であるという経済的メリットも手伝って,160年以上にわたって,がん性疼痛や,急性の術後痛の管理に中心的な役割を果たしている1)。
術中の不適切な鎮痛は,内因性カテコールアミンの濃度を上昇させ,そのことが免疫系に抑制的に働く可能性も示されており2),術中に適切に自律神経系の反応を抑えることは重要である。一方で,米国を中心に,安易なオピオイド処方による死亡の増加が社会問題となり,今や医療経済を圧迫する事態にもなっている。オピオイドの持続的使用が,予後に悪影響を与えるとの考え方は浸透しつつある3)。しかしながら,術中のオピオイド投与が術後の持続的なオピオイド使用の発生に影響を与えるかどうかはまだわかっていない1)。また,特に非がん性疼痛に対する長期間のオピオイドの使用は,生命予後的にも悪いことは多く知られている。加えて,オピオイドの免疫調節機能が,がん免疫を抑制し,悪性腫瘍手術後の再発に影響する可能性も危惧されている。
本稿では,術中のオピオイドが長期予後に与える影響を検討するため,まず,オピオイドの長期使用が体に与える影響(がんの再発,およびオピオイド依存によって起こる体の影響)について文献的エビデンスを述べ,術中のオピオイド使用が,術後長期使用に至る可能性として,オピオイド誘発性痛覚過敏opioid-induced hyperalgesia(OIH),オピオイド誘発性耐性opioid-induced tolerance(OIT)の関与を述べる。これらを踏まえて,術中のオピオイド使用戦略をどのように考えるかについて述べたい。
Copyright © 2022, MEDICAL SCIENCES INTERNATIONAL, LTD. All rights reserved.