別冊春号 2021のシェヘラザードたち
第20夜 恐ろしき肺高血圧症—失敗とは必然であり,原因は己にあり
出口 浩之
1
1新潟大学医歯学総合病院 麻酔科
pp.131-134
発行日 2021年4月15日
Published Date 2021/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.3104200210
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専門医試験受験資格を得るか得ないかのある年のある日,明後日の担当症例が記載されたファイルを手にした。婦人科手術縦3件。このくらいの学年になるとASA-PS1,2なんて当たるわけもない。なにやら嫌な予感がする中,症例の詳しい情報をみようとしたところ上級医から声をかけられた。
「1件目の人,肺高血圧症があるみたいだよ」
ああ,当時に帰れたら,私は自分にこう言いたい。
「おまえにはまだその症例は早い。そのちっぽけな自尊心は捨てて,土下座して泣いて許しを請うて,こう言え『その日は有給をください』」と。
…
医師として働き続けていると,結果が変わらなかったとしても「ああしていれば…」,「こうしていれば…」と,何年たってもふと思い出し,後悔,懺悔する症例を皆いくつか経験していよう。うまくいった症例はあまり記憶に残っておらず,反省点が残る症例もしくは不幸な転帰をたどった症例はどれほど時間がたっても忘れられないものである。自らを鑑みても,そういった経験のほうが自分の技術,知識を見直すいい機会だし,人の失敗談ほど糧になるものはない。
とはいっても,本症例に関しては,私自身の中では,茫然自失,瞠目結舌,あまりの事態に防衛機制が働き抑圧されてしまっているため,実際の症例とは整合性がつかなくなっているかもしれない。詳細に記憶が呼び起こされると私の自我が崩壊してしまう…ので,ご容赦いただきたい。
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