- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
■臨床の視点
▲疼痛重症化の個人差を規定する要因は何か?
術後静脈血栓塞栓症予防のための抗凝固薬の使用に備え,大手術でも硬膜外麻酔を併用しない全身麻酔症例が増えている。このような症例では,術中鎮痛はレミフェンタニルを主体とし,術後鎮痛はフェンタニルの持続静脈投与とすることが多いが,覚醒前からフェンタニルをタイトレーションし十分量を投与したつもりでも覚醒直後から痛みを訴えられたり,その後の術後鎮痛の管理に難渋することがある。このような,日常診療で経験的に習得してきた開腹術後鎮痛に必要なオピオイド鎮痛薬用量を,大きく上回る用量を要する患者に一定の頻度で遭遇するのはなぜだろうか。
抗凝固薬に関連する以外にも,虚血性心疾患や脳梗塞の既往歴のために抗血小板薬を内服している患者が高齢化に伴って増えていることから,全身麻酔のみで周術期管理を求められることが多い。この20年の間に抗血小板薬の主軸が低用量アスピリンからクロピドグレルなど,チエノピリジン誘導体などの抗血小板薬に切り替わってきたが,このような抗血小板薬の変遷を経験する過程で,低用量アスピリンを使用していた患者のほうが術後痛管理に難渋する印象をもっており,これはアスピリンによる慢性シクロオキシゲナーゼ-1(COX-1)阻害が中止されることによるリバウンド現象1)で,COX誘導が強化され炎症が強くなっているためではないかと推察していた。
さらに,がん性疼痛においても同様で,画像上のがんによる組織破壊があまり顕著でなくても非常に強い痛みを訴え,高用量のオピオイド鎮痛薬が必要な患者にもときどき遭遇する。
このような術後鎮痛やがん性疼痛の重症化には個人差があることがすでに報告されており,このような個人差を規定する遺伝的素因についての研究を実施した2)。
Copyright © 2018, MEDICAL SCIENCES INTERNATIONAL, LTD. All rights reserved.