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■臨床の視点
▲痛みの認知:場所,強さ,不安?
ある朝目覚めると腹痛がして悪心を覚えた。おなかを触ってみると圧痛があり固い。もしや腹膜炎? と思ったらだんだん痛みが強くなり,冷や汗が出てきた。しかし熱はなさそう。そういえば昨晩,一杯飲んで帰宅後,どういうわけか調子に乗って腹筋トレーニングをやりすぎたのを思い出した。ただの2日酔いの筋肉痛とわかった瞬間,痛みが和らぎ,冷や汗も引いていった。
このような痛みに対する認知や情動の影響は読者も経験があるのではないだろうか。近年fMRI(functional MRI:機能的MRI)などの脳機能画像によって痛みに関連する脳活動が目で見えるようになり,痛みの脳科学は飛躍的に進歩した。本稿ではfMRIによる痛みのトップダウン機構の解明と,安静時fMRIによって近づく臨床応用,そしていよいよ始まった意識の研究について紹介する。
■デカルトとその後の痛みのモデル
米国では2001〜10年までを“痛みの10年”に制定し,痛みの研究は格段の進歩を遂げた。そのロゴにも使われている図1は,17世紀のフランスの哲学者デカルトが,痛みの反射の概念を説明するために用いたものである。死後に出版された『人間論』(1664年)のなかで彼は,足もとにある熱い火が燃えているときにそれを避けるような反射を,教会で鐘が鳴るメカニズムと似ているとした。
その約300年後の1965年にMelzackとWallが発表したゲートコントロール説は久々に革新的な仮説だった。「なぜさすると痛みが和らぐのか」という疑問に,「触覚を伝える太い線維が,痛覚を伝える細い線維の興奮を抑制する」という答えを示したのである。そしてもう1つ画期的だったのが,中枢から末梢への痛みの抑制や修飾など,トップダウンの要素を盛りこんだ点だった1)(図2)。
しかし3年後の1968年,MelzackはCaseyとともに“痛みの内側系・外側系”という新しいモデルを提唱した2)(図3)。Wallはこの説に賛同せず,「われわれはロープを引けば痛みのベルが鳴るというデカルトの仮説を疑う根拠を与えた。2つのロープで感覚と情動の2つのベルが鳴る,という代わりの仮説に魅力は感じない」「はたして感覚と情動は分けられるのか」と批判した。特に中枢レベルでの考察は,ばらつきが大きい症例研究から結論づけられており,40年以上たって脳研究が格段に進歩した今,モデルの再検討が必要と考えた。
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