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■臨床の視点
▲筋の痛み,骨の痛みの知覚にはどの脳部位が関与するか?
ストレスや不安による痛みの増悪,教示によって生じる痛みの増減(いわゆるノセボ/プラセボ効果)などから,痛みの知覚には脳での情報処理が重要な役割を担うことが示唆される。脳波,脳磁図,ポジトロン断層法(PET)や機能的MRI(fMRI)といった非侵襲脳活動計測法の発達により,ヒトが痛みを感じているときの脳局所の活動を直接評価することが可能となり,外部から与えられる痛み刺激に対して視床,一次・二次体性感覚野,前帯状回,島皮質といった領域が反応することが明らかになった1, 2)。しかし,ほとんどの知見は,皮膚への痛み刺激に対する反応を検討した研究から得られたものである。
痛みの臨床において,捻挫や骨折などの外傷による痛みをはじめ,腰痛,関節リウマチなど筋骨格系に痛みが生じる疾患は重要な治療対象であり,筋の痛み,骨の痛みの知覚にどのような脳部位が関与するかを明らかにすることは,痛みに対する新たな治療法の開発につながる可能性がある。筋の痛み・骨の痛みの知覚にかかわる脳部位がわかれば,電気・磁気刺激を用いたニューロモデュレーション手法,あるいは非侵襲脳活動計測法を用いた神経活動制御技術であるニューロフィードバックを用いて,その部位の神経活動を抑制・亢進させることで,これまで鎮痛薬では効果が得られなかった痛みに対しても,除痛・鎮痛が得られるようになるかもしれない3)。
また,筋骨格系疼痛疾患では運動時痛が問題となる。運動時痛は日常生活動作(ADL)の低下と結び付くため,臨床において重要な治療対象であるが,実験上の制約から,これまでほとんど研究の対象とされてこなかった。
そこでわれわれは,筋骨格系の痛みの知覚にかかわる脳部位を明らかにすることを目的として,一連の研究を行った。機械刺激による受動的な痛みに対する研究では,圧痛刺激と局所麻酔を組み合わせて皮膚の痛み,筋の痛み,骨の痛みそれぞれに関する脳部位を,fMRIを用いて検討した4, 5)。また,運動時痛に対する研究では,人為的に誘導した遅発性筋肉痛を実験モデルとして,上腕の運動時痛に関する脳部位の検討を行った6)。
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