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かつて成書には「呼吸機能の悪い患者に全身麻酔を施行すると抜管困難になるので全身麻酔は避けるように」と書かれていた(いる?)。例えば文献1には「原因,年齢,体格のいかんにかかわらず,1秒量が1L未満の場合には非常にリスクが高い」とある。筆者が研修医になった頃の麻酔は亜酸化窒素,酸素とハロタンもしくはエンフルラン(いわゆるGOF,GOE)であった。筋弛緩薬も,パンクロニウムやアルクロニウムという現在のロクロニウムやベクロニウムより長時間作用性のものであった。オピオイドや硬膜外麻酔の併用は一般的ではなく,術後覚醒させると痛みで不穏になることもたびたびあり,ときとして覚醒遅延が生じたり筋弛緩が残存してリバースできるまで時間を要することがあった。一般の麻酔がこんな状況であった時代に,呼吸機能が悪い患者では全身麻酔は難しいと考えられても不思議ではない。それから30年余りの間に新しい麻酔薬や筋弛緩薬が登場し,全身麻酔は以前よりも非常に安全になったが,成書の記述は残念ながら改訂されていないのが実情である2)。
筆者は1997年から5年間,羽曳野病院(現・大阪はびきの医療センター)という呼吸器の専門病院に勤務していた。当時,羽曳野病院では約400人の在宅酸素療法(home oxygen therapy:HOT)中の患者が診療を受けていた。HOT患者の大部分は重症肺気腫で高齢者も多く,胃癌や大腸癌などの悪性疾患に罹患したり,急性腹症を発症したりすることがある。筆者は羽曳野病院に赴任してから脳波の研究を開始しており,脳波モニタリングによる全静脈麻酔(TIVA)の管理戦略も構築していた。脳波モニタリングにより適切な麻酔レベルを維持していれば,水分バランスが大きく狂わない3時間程度までの開腹術ならHOT患者であっても術後抜管困難となる可能性は非常に低いと考え,全身麻酔での管理を行っていた。そんなときに消化器外科からつぎのようなHOT患者の開腹術の依頼があった。
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