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本特集のタイトルである「ICUで遭遇する免疫異常」を初めてご覧になられた読者諸氏は,書かれている内容もきっと難しいと思われたに違いない。かくいう筆者も,免疫学は頭の良い人が専門とする難しい学問というイメージがあり,今まで極力避けてとおってきた。ところが,免疫学に関する近年の進歩は目覚ましく,集中治療医としてもはや看過できない状況へ変わってきた。本特集では,筆者のようにこれまで免疫学を苦手としてきた,あるいは臨床免疫学へなじみのなかった医療者を対象に企画した。意外なことに,10年以上の歴史を重ねる当誌において免疫異常をテーマとして取り上げるのは今回が初めてである。それでは,免疫異常が集中治療領域でまれな病態であるかといえば,決してそのようなことはない。むしろ敗血症をはじめ血管障害や外傷,大手術後では,程度の差こそあれ免疫異常を生じている。ところが,これまでは免疫異常を客観的・経時的に評価するゴールドスタンダードが存在せず,しっかりとした評価ができなかった。その後,免疫学の進歩のおかげで,ICU患者における免疫異常とその臨床経過は病態や疾患によらずオーバーラップすることが次第に明らかになってきた。本特集の目的は,こうしたICUでみられる免疫異常の病態生理を理解し,今後の実臨床へ結びつけられるようにすることである。
総論では,正常と異常な免疫応答について概説した。正常な免疫応答は大きく,抗原非特異的に反応する自然免疫と,外来抗原や病原体へ特異的に反応する獲得免疫へと分けられる。いずれの免疫応答も,病原体関連分子パターンpathogen-associated molecular patterns(PAMPs)あるいは傷害関連分子パターンdamage-associated molecular patterns(DAMPs)の産生をきっかけに炎症反応が惹起され,免疫応答が開始される。正常な免疫応答では,炎症反応が過剰となる前に抗炎症反応がブレーキをかけ,炎症反応は収束する。ところが,正常な免疫応答のバランスが崩れると,以下に述べる異常な免疫応答が引き起こされる。
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