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集中治療医とは言ってみれば,急性期重症患者の総合診療医である。各科が得意とする専門的手技や化学療法などはできないが,重症患者の全体を俯瞰し,かつ,きめ細やかな全身管理を行うことに長け,病態の核心を見極め各科や多職種と協働し,患者の転帰を最大化することを支持できる存在である。同時に,数ある介入のベクトルの総和が,患者の目指す治療ゴールの達成へ効果的に作用しているかを適正化する調整役として機能すべき存在でもある。ICUを生存退室することは,大多数のICU患者の治療ゴールの必要条件であるが,十分条件ではないこともある。ICUで行われる介入が患者にとって最善となるためには,患者の治療ゴールを達成できる可能性を予測したうえで,総合的に取捨選択された治療方針として患者やその家族,主治医,チーム内へ提案し合意を形成する必要がある。そのためには,患者が重症病態となりICUに入室している期間のみに着目するのではなく,そこに至るまでの長期経過から患者がトラジェクトリーカーブのどこに位置しているのかを推測すること,ICU退室後の長期予後に関する見通しを立てられることが必要となる。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックのなか,我々医療者は,最善の医療とは何なのかについて日々考えさせられた。特にパンデミックの初期は情報が乏しく,治療中の疾病の自然経過がわからず,良くも悪くもならない期間の長い患者を前に,病態が改善しているのか,改善する可能性は高いのか低いのかわからず,暗中模索の状態だった。さらに,集中治療が必要な患者はすでに意思疎通が困難な状態でICUへ入室することが多く,患者の意向がわからぬまま侵襲的な治療を開始せざるを得ないこともあった。隔離され患者の様子が十分にわからぬ状況での治療方針決定には,代理人である家族も難渋された。しかし我々は,知恵を絞り積極的にコミュニケーションをとる方法を改善し,不確実性の高い予後を呈する重症患者診療においても少ない情報のなかで議論を重ね,最善の医療を成し遂げるために前進した。確かにCOVID-19パンデミックの初期は,コミュニケーションの質と量の低下に起因する治療ゴールの不明確さや予後予測の不確実さが際立った。しかし,これらは程度の差こそあれ,平時の重症患者診療において我々がまさに日々直面している課題ではないだろうか。
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