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厚生労働省の統計によると,自殺者は毎年3万人を超える高い水準で推移している。自殺死亡者の手段別割合(2003年)において,薬物は男性では3.0%で,縊首,ガス,飛び降りに次ぐ第4位,女性では6.7%で,縊首,飛び降りに次ぐ第3位(同率で溺死)となっている1)。そのなかで,向精神薬がかなりの割合を占めていることは想像に難くない。
近年では,副作用が多く,過量服用した際に致死的な経過をたどり得る三環系抗うつ薬(TCA)や定型抗精神病薬の使用は減少し,副作用が少なく比較的安全に使用できる選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)や非定型抗精神病薬が治療の主流となっている。しかし入院を要する重症のうつ病に対しては,SSRIなどの新規抗うつ薬よりもTCAのほうが効果的であるという経験知,エキスパートオピニオンがある2,3)。また,非定型抗精神病薬には高血糖や体重増加をはじめとした代謝系合併症があり,さらに,近年のハロペリドール以外を中心とした定型抗精神病薬を使用した研究では,非定型抗精神病薬と比べて効果や副作用による治療脱落に差はない4,5)ことが報告されている。これらのことから,TCAや定型抗精神病薬の処方は,減少するにせよ一定数は残り続けることが想定される。
そのため,本稿では過量服用した際に致死的となり得るTCAや定型抗精神病薬に加え,ここ最近主流となっている比較的安全性の高いSSRIや非定型抗精神病薬,使用頻度の高いベンゾジアゼピン系薬物(BZO),Z薬についても概説する。
Summary
●致死性が高い中毒はTCAと定型抗精神病薬によるものである。一方で,比較的安全性の高いSSRIや非定型抗精神病薬,BZO,Z薬の過量服用の頻度が高く,中毒症状と対応について理解を深める必要がある。
●各中毒の治療に共通するのは,primary ABCの確認および確保である。
●TCA中毒は,難治性血圧低下やQRS時間延長に引き続く心室不整脈,痙攣を引き起こす。心室不整脈や痙攣の予測にはQRS時間が有用であり,QRS時間延長や血圧低下を認めた場合には炭酸水素ナトリウムを投与し,血液のアルカリ化に努める。
●SSRI中毒では多くが軽症か無症状で特異的な検査や治療はなく,自然収束することがほとんどである。例外的にセロトニン症候群に至った場合は,集中治療管理が必要となることがある。
●抗精神病薬中毒は,QT延長に引き続くTdPや痙攣,悪性症候群を引き起こす。TdPに対してはマグネシウム投与やオーバードライブペーシングが,悪性症候群に対してはWoodburyらの病期に基づく治療が推奨される。現在主流の非定型抗精神病薬は,定型に比べ安全性が高まっている。
●BZOやZ薬は安全性が高く,単独の中毒では致死的となることはほとんどない。これらの拮抗薬であるフルマゼニルは,BZO常用者の離脱症候群や痙攣閾値の低下による痙攣誘発というデメリットがあるため,適応は限られる。
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