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運動ニューロン疾患motor neuron disease(MND)は,脳・脊髄に存在し骨格筋を支配する運動ニューロンの変性により,全身の筋力低下が進行する疾患の総称である。MNDには筋萎縮性側索硬化症amyotrophic lateral sclerosis(ALS)のほか,進行性球麻痺,脊髄性筋萎縮症,原発性側索硬化症などの疾患が含まれるが,ALSのことを指していることが多い。典型例であれば,すみやかに臨床診断を確定し,適切な対応が可能である。しかし,臨床像は非常に多彩であり,非典型的な例では明確な診断がつかないまま病期が進行し,呼吸不全が進行して救命処置を受けたあとに診断に至ることがある。
本稿では,ALSの概説と,非典型例の問題点,胃瘻からの経腸栄養や呼吸補助の開始時期などについて述べる。また,患者本人の意思が反映されずに呼吸器管理に至った場合の倫理的問題についても取り上げる。
Summary
●筋萎縮性側索硬化症(ALS)の診断は,腱反射亢進や痙性などの上位運動ニューロン症候,筋萎縮や筋力低下など下位運動ニューロン症候がそろって認められ,それらの症候の進行と部位の広がりがみられることでなされる。
●ALSは全身のどの部位からでも発症し得る疾患であり,経過も個人差が大きく,症候のそろわない亜型も存在し,臨床像は多彩である。
●球麻痺発症や,まれながら呼吸筋麻痺で発症する病型は予後不良である。
●進行した嚥下障害に対しては,胃瘻造設による経腸栄養維持が,体重の安定化,生存期間の延長に有用であり,呼吸機能低下および体重減少が進行していない段階での実施を検討する。
●呼吸障害に対する非侵襲的陽圧換気の導入については,努力性肺活量などの指標が比較的保たれている段階でも,呼吸障害を示唆する臨床所見を見定め,なるべく早期の段階から検討する。
●診断が確定できないまま急性呼吸不全が進行し挿管管理をしたあとにALSと診断が確定する場合,現状では離脱は不可能であるが,今後,患者の意思を尊重した終末期医療の体制整備と,関係機関が作成した適切な公的ガイドラインの実効的実施を目指す取り組みが必要である。
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