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クリティカルケアを受ける重症患者には,まだ我々が知り得ていない生体防御機構が複雑に働き,それが予後に影響していることが考えられる。患者管理中に,生理学的には説明しきれない血行動態の変化や神経内分泌学的な変化を経験することはまれではない。
nonthyroidal illness(NTI)は,既存の視床下部-下垂体-甲状腺系の機能異常がない患者に生じる,甲状腺ホルモン低下を中心とした甲状腺機能検査異常を引き起こす病態1)と説明されている。これは真の甲状腺機能異常ではなく,重症疾患時に生体防御のために異化を低減させる順応反応である2,3)との考え方が現時点では最も一般的である。NTIは我々がしばしば遭遇する重症疾患時の内分泌学的変化であり,下垂体-副腎皮質系の変化と並んで非常に興味深い病態である。最も典型的なホルモンの変化としては,T3の低下(場合によってはT4の低下も伴う)にもかかわらず甲状腺刺激ホルモンthyroid stimulating hormone(TSH)が軽度低下から基準値範囲内にとどまり,rT3が上昇するパターンと説明されることが多い。しかし,これは病態のフェイズによっても異なり,画一化することはできない。
この病態は1970年代から文献的に報告がみられ,約40年以上にわたってこの解釈について研究・議論が行われているが,病態の解明は大きくは進んでおらず,臨床的なdecision makingに影響を与えるようなエビデンスは出ていないのが実情である。臨床医の興味は,この病態のメカニズム,真の甲状腺疾患との鑑別診断,治療介入の必要性,予後因子としての役割にあることが考えられる。
NTIは日常臨床において,まだなじみのない読者も多い病態である可能性もある。そのため,本コラムでは甲状腺関連ホルモンの生理学からNTIの基礎的な知識,前述の臨床的興味に関する現在の知見をオーバービューすることとする。
Summary
●NTIは,視床下部-下垂体-甲状腺系機能異常の既往がない患者に甲状腺機能検査異常を引き起こす病態である。
●真の甲状腺機能異常ではなく,エネルギー消費を抑える生体防御のための順応反応であると理解されている。
●NTIのメカニズムは単一ではなく,中枢性と末梢性の両者が併存する複雑な病態が関連している可能性が高い。
●多くの薬物が甲状腺機能検査に影響を与えるため,常に薬物性を考慮する。
●急性期での甲状腺機能検査は,病歴や臨床経過を十分に把握し甲状腺機能異常を強く疑うときのみ行う。
●NTIに対するホルモン補充療法に予後改善のエビデンスはなく,甲状腺機能低下症を疑う状況でないかぎり避けるべきである。
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