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急性呼吸窮迫症候群acute respiratory distress syndrome(ARDS)は独立した疾患でなく,症候群であり,原疾患の治療が一義的である1,2)。近年,その死亡率は低下しているものの3,4),ARDSに対する新たな治療法の開発によるものではなく,早期の病態認識と介入,集中治療全体の向上などによる3,4)と考えられる。変革となり得るARDS治療法のなかで,体液管理戦略としてのconservative strategyは重要な位置を占める。
ARDSは,敗血症などの原疾患の存在のもとに発症する。そのため,ARDS患者の治療は酸素化の改善のみを目的とするのではない。呼吸管理と補助療法,さらに全身管理を適切に行うことが必要であり,ARDSの治療における循環・体液管理は古くから重要なテーマとして議論されてきた5〜8)。酸素化の改善のみを目的とするならば,輸液制限や利尿薬の使用によるドライサイドでの管理が選択されることとなるが,適切な組織灌流の維持なしにドライサイドでの治療を行っても,転帰の改善は期待できない。ARDSによる重症呼吸不全は致死的な病態となるが,決して呼吸不全のみにより死亡するのではない1)。呼吸不全のみをターゲットとするのではなく,組織灌流を維持し,かつ治療フェーズの認識に基づいた,ARDSにおける体液管理としてのconservative strategyと体液管理の指標に関して考えてみたい。
Summary
●最も頻度の高いARDSの死亡原因は多臓器不全であり,患者の転帰を改善するためには,全身の臓器機能を維持することが必要である。
●ARDSの本態である透過性の亢進した肺毛細血管では,通常では水分が漏出しない程度の血管内静水圧でも肺水腫が増悪する可能性がある。酸素化能を維持するために血管内静水圧を低く管理することは,重要な治療戦略である。
●全身の血管内容量を少なく管理することで肺血管内静水圧の低下をはかるconservative strategyにより,酸素化の改善,人工呼吸期間・ICU滞在期間の短縮が期待されるが,その適応の判断には治療・病態フェーズの認識が重要である。
●輸液投与に対する反応性を静的圧指標で評価することを支持する理論的根拠は乏しい。下大静脈径や心室拡張末期容量などの静的容量指標も,単独指標として十分に信頼し得るものではない。
●陽圧呼吸下での輸液反応性の評価には,dynamic testであるstroke volume variationとpulse pressure variationが静的圧・容量指標より優れる。自発呼吸下での評価法として,passive leg raising testが有用である。
●ARDSに対するconservative strategyの目的は,全身をドライサイドで管理し,全身性浮腫を防ぐことではない。経肺熱希釈法により客観的な定量的評価が可能である肺血管外水分量増加を抑制・改善することが目標となり得る。
●肺血管外水分量や肺血管透過性亢進にはARDSの病態を反映する可能性があるが,これらを指標とした治療による転帰への効果は示されていない。また,基準値も明確ではなく,今後の課題である。
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