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重症敗血症は,救急・集中治療領域での死亡の主たる原因の1つである。その敗血症の生命転帰を左右する因子として遺伝的素因が挙げられている1~4)。例えば,デンマークのSørensenら1)は,各種疾患による死亡と遺伝的素因の関連を研究し,両親が50歳まで生存している子供に比べ,感染により50歳以前に死亡した親がいる子供は感染による死亡率が有意に高いことを報告している。また,同研究では,その感染による死亡に与える遺伝的素因の影響は,悪性腫瘍,心臓・脳血管疾患における影響を大きく上回ることも示されている。
遺伝的素因の個体差,すなわち遺伝子を構成しているDNA配列の個体差は,遺伝的変異genetic variationと呼ばれる。そのうち人口の1%以上の頻度で存在する変異が遺伝子多型genetic polymorphismと定義される。遺伝的変異には1つの塩基のみが異なる場合,複数の塩基が異なる場合,繰り返し配列の数が異なる場合など,複数のパターンが存在する。
一塩基多型single nucleotide polymorphisms(SNPs)はDNAの1構成単位である1塩基の配列が異なるタイプの遺伝的変異である。各種の遺伝子多型のパターンのなかで頻度が高く,研究数が多い(図1)3)。
敗血症の転帰に影響を与える遺伝的素因はこれまでこのSNPsを中心に多くの研究が行われてきている2~4)。そこで本稿では,まず遺伝子多型研究の手法を紹介し,次に,最近の知見,特に敗血症の重症化〔ショックや急性呼吸窮迫症候群acute respiratory distress syndrome(ARDS)〕に関連した遺伝子多型研究を中心に解説する。なお,本稿で紹介する以外にも敗血症の転帰に影響を与える遺伝子多型の研究が報告されており,それらの重要な研究結果を網羅した総説5)もある。
Summary
●敗血症の生命転帰と遺伝的素因には関連がある。
●遺伝子関連解析,機能的遺伝子多型であるか否かを検証する研究が報告されている。
●近年,敗血症の重症化に関連する因子を探索する研究が報告されている。
●遺伝的素因に基づいた個別化治療が実際に行われている疾患が存在するが,敗血症を含む救急・集中治療領域では,まだ実現していない。
●近年の科学技術の進歩により,遺伝子多型研究は飛躍的に発展している。敗血症の臨床経過に影響を及ぼす遺伝的素因に関してさらに研究を重ねることにより,敗血症に対する個別化医療が近い未来に実現することが期待される。
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