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静脈血栓塞栓症venous thromboembolism(VTE)は脳神経外科関連疾患の周術期において,最も注意しなければならない合併症の1つである。なかでも臨床的に問題になるのが,深部静脈血栓症deep vein thrombosis(DVT)とそれに起因する肺血栓塞栓症pulmonary thromboembolism(PTE)である。PTEを発症した場合,死亡率は高く,50%1,2)とする報告もあり,それらの予防は必須であると考えられる。DVTに対する予防法のうち,機械的予防法(弾性ストッキングおよび間欠的空気圧迫法)は,簡易かつ安全に使用できるため,周術期あるいは入院早期からルーチンで使用している施設が多いと思われる。しかし,抗凝固療法を予防的に行うことは,頭部外傷や出血性脳卒中においては出血性合併症が危惧されるため,躊躇することもある。この点が,他の疾患と異なる。
本稿では,これら頭部外傷や出血性脳卒中に対する抗凝固療法について,これまでの報告を概説し,その有用性と安全性,開始時期について検討する。
Summary
●VTEは,VTE予防を行わないあるいは機械的予防法のみを行った頭部外傷の32~39%,脳出血の20~40%,VTE予防を行ったくも膜下出血の6.7~24%に認められたと報告されている。
●現在本邦で使用可能な抗凝固薬(ヘパリン類注射薬)は,未分画へパリン,低分子へパリン,ダナパロイド,フォンダパリヌクスであるが,頭部外傷および出血性脳卒中に対するVTE予防に保険適用があるものは,未分画へパリンのみである。
●頭部外傷や脳卒中は,VTE高リスク以上に分類され,間欠的空気圧迫法あるいは低用量未分画へパリン投与によるVTE予防が推奨される。最高リスクに分類された場合は,低用量未分画へパリン投与と機械的予防法の併用あるいは用量調節未分画へパリン投与が推奨される。
●VTE予防としての抗凝固療法開始のタイミングは,頭部外傷では入院後3日以降,脳出血であれば3~4日以降で考慮してもよいと思われるが,出血病変の増悪がないことを十分に確認しなければならない。くも膜下出血では,破裂脳動脈瘤に対する再破裂予防処置が確実に行われた後に,抗凝固療法開始を考慮するが,開頭手術か血管内手術かによって抗凝固療法開始時期が異なるため,脳神経外科医を含めたスタッフと十分に検討し,決定しなければならない。
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