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周術期の急性腎傷害(AKI)は,術後罹患率,死亡率の増加に関連しているといわれている。非心臓手術における周術期AKIの発生率は0.8~1.2%であるが1),心臓手術後には5~20%にも上る2~4)。また,術後AKIを起こすと,呼吸器感染症,消化管出血,sepsis(敗血症)を高率に合併する5,6)。ひとたび周術期AKIを発症すると,その死亡率は高く,特にsepsisを合併すると70%にも達するといわれる5,6)。したがって,周術期におけるAKIの予防や早期介入が重要であると結論づけることは理にかなっているようにみえる。しかし現実には,周術期において特定の予防策や早期介入がAKIの進展を防ぎ,透析を回避し,患者の生命予後を改善したと胸を張って言えるような研究は少ない7)。
それどころか,つい最近まで一定の診断基準さえ確立されていなかった。最近になり,AKIの重症度分類として有用なRIFLE criteria8)やAKIN criteria9)が提唱され*1,周術期患者にも適用されるようになった。例えば,心臓術後患者でのRIFLE criteriaを用いた検討では,“Injury”以上と分類された患者は,それ以外の患者に比べて死亡率が4倍以上増加したといわれ,疫学研究や予後予測に関して長足の進歩を遂げた10)。しかし,このような診断基準を用いることが真に予防や早期介入につながるかどうか,今後の検討を待たねばならない。
すなわち,現段階で我々周術期にかかわる臨床医にできることは,残念ながらAKIについての“一般的なリスクファクターを認知し,誘因を軽減または除去すること”しかない。したがって,本稿は本特集のなかで他のエキスパートの執筆者が解説されたことの繰り返しになる部分も多い。しかし,日々ICUで血液浄化が必要になった周術期AKI患者の病歴を聴取し,“腎臓に対して我々がまず守るべき原則”の周知が徹底されていない現実を思い知らされるたびに,“重要なことは何度でも強調されるべき”であると思う。以下,本稿において周術期AKIのリスクファクター,誘因,病態および予防と治療について概説する。
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