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腹部コンパートメント症候群 abdominal compartment syndrome(ACS)は,腹腔内高血圧 intra-abdominal hypertension(IAH)に起因する腹腔内臓器障害の増悪を特徴とする症候群である。1863年にMareyが初めて,腹腔内圧が呼吸機能に与える影響を記載したとされている1)。また,1984年にKronらが腹部大動脈瘤破裂の病態においてその概念を提唱した2)。2004年にWSACS*1における国際会議で,ACSの定義に関する一致した見解,診断と治療に関する推奨が示された3~5)。
現在,ACSの重要性や認識は徐々に増してきている。しかし,重症患者で発症しやすいことや,臓器障害が初期疾患の悪化に伴うものと誤診される可能性があるため,十分な診断がなされていないのが現状である。IAHを見逃し,ACSに進展することは,組織灌流低下や多臓器不全につながる。ACSを有する患者の致死率は40%以上に上ることが報告6, 7)されていたが,近年,ACSの認識が徐々に高まり,死亡率も改善傾向にある。
Riversらにより報告8)されたearly goal-directed therapy(EGDT)がSurviving Sepsis Campaign9)でも組み込まれ,救急室での晶質液の大量輸液が行われるようになってきた。その代償としてACS発症の危険性が高まっていることは,集中治療医として常に念頭に置いておくべきである。本病態は適切な治療を行うことで臓器障害を改善させることができるため,早期診断と早期治療が重要となる。本章では,IAHやACSの定義,罹患率,リスクファクター,病態生理と臨床症状(とりわけAKIについて),診断,管理,予後について述べる。
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