徹底分析シリーズ 痛みのモニタリングへの挑戦
痛み医療における脳機能モニタリングの位置づけと展望—心頭滅却すれば火もまた涼しの境地へ至るには
若泉 謙太
1,2
Kenta WAKAIZUMI
1,2
1慶應義塾大学医学部 麻酔学教室
2慶應義塾大学病院 痛み診療センター
pp.476-479
発行日 2024年5月1日
Published Date 2024/5/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.3101202916
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脳による痛みの認知
痛みを感じているとき,脳神経はどのように活動しているのだろうか? われわれ麻酔科医は,神経ブロックにより侵害刺激の伝達を阻害してしまえば,指を切り落としても痛みを感じないことを知っている。硬膜外鎮痛が機能していると,数時間に及ぶ手術の後であっても,患者は何事もなかったかのように安静にしている。このことは,痛みを認知するためにはそれ相応の脳活動が必要なことを示している。
逆に興味があるのは,「心頭滅却すれば火もまた涼し」の境地において,どのような脳活動が起こっているのか,である。末梢神経から求心性に伝わる侵害刺激(痛みや熱さなど)が脊髄を上行すると,ペインマトリックスと呼ばれる脳部位が活動し,痛みが認知される。上記のことわざのように意識的にこの上行性の刺激伝達を抑制することはできるのだろうか。脳からトップダウンに痛みを抑制する経路があり,事故直後などの危機的状況で痛みを自覚しにくくなるのは,そうした下行性疼痛調節系の作用によると考えられている。一方で,慢性痛患者ではこの下行性疼痛調節系の機能が低下し,痛みに対して過敏な状況になっている。そのため,意識的に下行性疼痛調節系を賦活化できれば,慢性痛の治療につながる可能性がある。しかしながら,そのような中枢神経系の活動は意識して調節できるものではなく,だからこそ多くの人が慢性痛に悩まされ,治療がうまくいかない現実がある。だが,あきらめるのはまだ早い。
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