快人快説
神経経済学入門〜痛みの脳科学とは〜—意思決定のしくみを理解し,最適な治療介入を目指す
若泉 謙太
1,2
Kenta WAKAIZUMI
1,2
1慶應義塾大学医学部 麻酔学教室
2慶應義塾大学病院 痛み診療センター
pp.117-124
発行日 2023年1月1日
Published Date 2023/1/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.3101202438
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
はじめに
人間だから,誘惑に負けるときはある。どうしてもやる気が出なくて,やるべきことを先送りにしてしまうこともある。かくいう筆者も,この原稿を「締切効果」を使って書いている。「締切効果」とは,期日の迫った状況で集中力が高まる現象を指す,行動経済学の用語である。このような人それぞれの意思決定は,その人自身がおのれの価値判断にもとづいて決めたことのはずである。ところが認知神経科学によると,意思決定はドパミン神経系を中心とした脳活動によるものであり,複数の神経の発火による電気的信号にすぎない。さらに,その活動を外部からコントロールすると,判断を変化させることができるという。自身の中で行ったはずの価値判断が,外部から簡単に操作される,そんなことがあってよいのか!?
さて,本稿タイトルの神経経済学neuroeconomicsとは,行動経済学behavioral economicsと脳神経科学neuroscienceの融合領域で,行動経済学における意思決定の脳科学的基盤を脳神経科学の手法を用いて解明しようとする学問である。非侵襲的に脳活動を計測できるニューロ・イメージングの技術が向上したことにより,ヒトでの研究が可能になった。本稿では「痛み」を題材に,脳科学的エビデンスにもとづいて価値判断のメカニズムを探る,ロマン溢れる神経経済学を,できるだけわかりやすく紹介していこう。
Copyright © 2023, MEDICAL SCIENCES INTERNATIONAL, LTD. All rights reserved.