扉
火のまつり
pp.4
発行日 1959年3月15日
Published Date 1959/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661910803
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その広大な土地と膨大な人口とにおいては,世界で3番と下らない国インド,長い間の殖民地民族から,民族の解放を叫んで立ちあがつたガンヂーによる自由国家となつたインド,そして,今日,世界的大政治家であるネールの指導のもとに近代文化国家となる準備をすすめているインドは,又,信仰の厚いヒンズー教の信徒であります。強い宗教的な制約が日常生活を支配する一方,民主的になつたとはいつても,厳然として存在する社会階級制度は,たとえ彼らが立身出世を期待しないにしても,生れながらにして地位が定められているのは,彼等の生活を真に幸福にはしていない。4億国民の1割程度以外の人は,文字にも,学問にも縁のない国民であり,同時に住居にも,食物にも縁が遠い。何となくあけくれてその日を何とか過している。別に苦にもならないらしい,ただ本能だけの生活のようにもみえる。
こんな生活の中に,非常に美しい印象をいくつか経験したのでその一つを御紹介しましよう。
“Dcwoli Light”とよばれるヒンズー教徒のおまつりがあります。これは“火”のまつりで,火は彼等を悪霊から護つてくれるという信仰で尊ばれています。毎年11月10日,入陽と共にあたりが薄暗くなると,家という家,建物という建物,はては路傍の小さ露店にも,みかん箱1個のまずしい店にも,小さなローソクの火がゆれて街中は生き生きとかがやくのです。
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