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0.05〜2%の人が,その一生でアナフィラキシーを発症するといわれている1)。歴史上,最初のアナフィラキシーの記録は紀元前27世紀にエジプトのメネス王が蜂に刺されて死亡したという古代エジプト象形文書であるが,この急激に発症する,時に死に至る重症のアレルギー反応と定義されるアナフィラキシーanaphylaxisの機序解明の歴史は20世紀初頭に始まった。
1902年,フランスのRichetとPortierはイソギンチャク毒素をグリセロールで処理したものをイヌに投与する実験を行っていたが,投与量が少なくて生き残ったイヌもいた。そこで後日,そのイヌを使って毒素を再投与する実験をしたところ,イヌは意識を失い,下痢,呼吸困難,そして窒息して死亡するという現象が確認された。Richetはこの現象をワクチンとは逆に生体を防御しないものと考え,ギリシャ語のανα(ana=against)とψυλαξιζ(phylaxis=protection)から,anaphylaxisと命名し,1913年にノーベル生理学・医学賞を受賞した2)。この実験的アナフィラキシーに肥満細胞とヒスタミンが重要な役割を果たしていることが判明するのは1963年,そして石坂公成により免疫グロブリン(Ig)Eが発見,報告されたのが1966年である3)。
肥満細胞,ヒスタミン,そしてIgEと,役者が揃ったところでアナフィラキシーのメカニズムは解明されたかに思われた。しかしその後,IgEを介さないアナフィラキシーや免疫学的機序が不明だが臨床症状的にアナフィラキシーと診断されるものが報告され,アナフィラキシーに関する研究は,その用語も含めて複雑化し,やや混乱している感も否めない。
本稿では,アナフィラキシーの機序について,これまで解明されてきた事実を,新しい知見も含めて世界アレルギー機構World Allergy Organization(WAO)が提唱した分類に従って整理しつつ解説する。なお,IgEが関与しない過敏症や非免疫学的機序による過敏症をアナフィラキシー様反応として区別していた。しかし現在はこの用語を用いないことが推奨され,アナフィラキシーとして統一されているため,本稿でもこれに従う4)。
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