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多くの成書に「凍瘡とは自律神経不安状態を素因として,これに0℃〜5℃内外の寒冷が作用して惹起された機能的,器質的血行障害である」と記載されているが,これは主として経験的推定に基くものであり,かつ判然としない.発症機序を明かにすることは如何なる疾患でも望まれることではあるが容易ではない.しかし凍瘡では寒冷が確に一つの条件であること,患者が多く,しかも例年のごとく発症治癒を繰返すことから統計的観察や計画的臨床検査が容易であること,作用機序の明らかな薬物の凍瘡に対する効果から逆に病態把握に役立つなど有利な点が少なくない,ただ現実には凍瘡の研究といつても「何々の者が多い」,「この地区ではこうであつた」といつた報告が多く,かつ凍瘡の発症機序は複雑なものであつて,一つの発症原因で律することは困難であるという結論が大部である.
発症機序を述べる前に臨床症状と発疹型に触れたい.凍瘡には種々の型が区別されるが,国際的には明確でない点が多い.わが国では当初伊藤教授1)が指頭大以下の浸潤性紅色丘疹を主体として瘙痒とくに加温時に強いものを多形紅斑型凍瘡(M型),欝血性浮腫を主体とし,ときにその上に水疱,びらん,潰瘍の発生を認める樽柿型凍瘡(T型)を区別された.神村2)はT型の母地の上にM型が生ずる混合型(MT型)を便宜上設定した.以上のものは手,指,足,趾を占位とし,比較的若年者に多いが,宮沢3)は耳介,足趾に発赤,腫脹を主な症状とする発赤型(E型)と頬骨部ときに指背に皮膚硬結を主徴とする硬結型(K型)を区別し,成人型凍瘡とした.そのほか下腿ときに大腿まで留針頭大の紫紅色斑ないし丘疹を作る毛包性凍瘡(Pernio follicularis;Keining)4)を加えるものもいる.外国ではPernio syndrome5)として急性型,慢性型に分け,さらに塹壕足や凍傷の一部も含めている.急性凍瘡は主として幼児が寒冷時,湿潤した状態で,保護の充分でないとき下腿や足に発症する発赤した丘疹で主な占位は下肢としている.慢性凍瘡は寒冷が繰返し負荷されて発症する下肢の浮腫性紅斑で,大部分が潰瘍を発生するものとしており,われわれの概念と異なる点が少なくない.Coskey6)のShoe Boot Pernioなども前者に属させているが,われわれの概念では凍傷の一種とみられるし,また小嶋7)の報告した乳児凍瘡なども神村8)の報告したInduratio congela—tiva buccalisに帰すべきものと考えたい.また女子下腿欝血紅斑をPernio follicularis acuminatussive planus(Klingmuller)とし,acrodermatitispustulosa hiemalisをpustular chilbrainとして凍瘡の一型として扱つているものもある.これらは寒冷が発症の一因であることは確かであろうが,症状が特殊であるばかりでなく,疫学的,病理組織所見,治療学的にもわれわれの凍瘡とは異なる点が少なくない.以上凍瘡の定義自体にも瞹昧な点が少なくないが,以下順を追つて発症機序を追求したい.
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