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手術などの生体侵襲が加わると,炎症性サイトカインや抗炎症性サイトカインが産生される。これらは,主に好中球,マクロファージ,樹状細胞,リンパ球などの免疫担当細胞が転写過程を経て新たに産生するものだが,これらのサイトカインを受容するサイトカイン受容体は,肺,心房,腎臓などの主要臓器の一部の基幹細胞や血管内皮細胞に豊富に存在し,新たに炎症性物質を転写段階で産生する。このような炎症性分子は,アミノ酸やリン脂質の再編成で作られるタンパク質あるいは脂質であり,この供給源は筋肉や脂肪組織だけではなく,組織内で炎症を惹起するAlert細胞(警笛細胞)1)である。
生体侵襲の急性相反応として生じるタンパク異化,脂質異化の本態は,新規炎症性分子などの急性相反応タンパクの産生のために使われ,主要臓器細胞の一部はオートファジーやアポトーシスやネクローシスにより死を迎え,アミノ酸および脂質の供給源となる。以上のように,現在,周術期における痩せの進行が分子レベルで明らかにされようとしている。
これまでに,急性期栄養管理に関するいくつかのガイドラインが公表されてきた。2002年には,米国静脈経腸栄養学会American Society for Parenteral and Enteral Nutrition(ASPEN)と欧州静脈経腸栄養学会European Society for Parenteral and Enteral Nutrition(ESPEN)が「静脈・経腸栄養ガイドライン」2)を,2006年にはESPENが「集中治療領域の経腸栄養ガイドライン」3)を公表した。また,2006年には日本静脈経腸栄養学会(JSPEN)の静脈・経腸栄養ガイドライン」が改訂され,エビデンスにもとづいた「静脈経腸栄養ガイドライン第2版」4)として公表された。これらに対して,2009年には新しい急性期栄養ガイドラインとして,ESPENは「外科領域における経静脈栄養に関するESPENガイドライン」5),および「集中治療領域における経静脈栄養に関するESPENガイドライン」6)を公表した。以上のガイドラインの流れより,現在は早期経腸栄養の開始によって,周術期の腸管炎症を軽減する指針が重要視されるようになった。さらに,2009年には,ASPENおよび米国集中治療医学会Society of Critical Care Medicine(SCCM)が,2~3日以上の集中治療管理を必要とする内因性および外因性成人重症患者を対象とした「急性期栄養ガイドライン」7,8)を発表した。
本稿では,2009年公表の三つの急性期ガイドラインの概要をまとめ,周術期栄養管理の方向性を確認する。
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