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「温故知新」という諺があるが,一見最新の手術手技のように見えて,実は古い先達のリバイバル版だったりすることがある。虚血心筋に対する最新のレーザー治療(TMR)も,昔々勇敢な外科医が,患者の心膜内にタールか何かを入れて炎症による血管新生を誘発させた荒療治にさかのぼることができる。
実はoff-pump CABG(OPCAB)も,新しくもとても古い術式で,冠動脈バイパス術(CABG)の世界最初の臨床報告例がロシアの外科医が行ったOPCAB(といっても,当時は人工心肺は使いたくても存在しなかったのだ),それも左開胸下に内胸動脈を左前下行枝につなげる(スーパーテクニックが必要な!)MIDCAB(最小限侵襲直接冠動脈バイパス術)であったのは興味深い歴史的事実1)である。当時は,技術や道具は現在と比べものにならないくらい貧弱なものであったわけだから,人工心肺の登場によって初期のOPCABは自然に廃れていったものと思われる。
人工心肺を使用した冠動脈バイパス術(CCAB)全盛期をへて,1990年代にMIDCABが一部の(野心的な)心臓外科医によってリバイバルされた2)。その後,心臓の拍動を抑制できる,いわゆるハートスタビライザーという便利な器機が開発され,多くの医療機器メーカーが熱狂的に市場参入し,OPCABが世界的に盛んに行われるようになり,現在に至っている。いわゆるDES(薬剤溶血性ステント)の登場も,心臓外科医を(患者獲得のため)より手術侵襲の少ない術式であるOPCABに駆り立てる一因となっているのは否めない事実であろう。
OPCABのトピックスとして,本稿の読者が若手麻酔科医であることも踏まえ,以下,①わが国におけるOPCABの現状,②off-pumpはon-pump CABGに勝るか?,③OPCABにおいて患者の術中血行動態や全身状態を維持するためのわたしの工夫,について述べる。
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