症例検討 ダメージコントロール
巻頭言
須崎 紳一郎
pp.555
発行日 2007年6月1日
Published Date 2007/6/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.3101100338
- 販売していません
- 文献概要
ダメージコントロールの導入がもたらしたもの。一つは,重度ショックの救命限界点を引き上げた。医療医学は日進月歩と言うものの,日々の診療では進歩の実感は乏しい。プレホスピタルケアの充実整備や画像診断は,確かに救命医療に大きく貢献したが,それらは診療環境,システムの変化であって,救急医自身の力の外にあった。その点ダメージコントロールは,診療医の腕で「昨日助からなかった命」を「今日は助けられる」手応えがあり,ここ10年間での数少ないprogressである。
また,これは診療における発想の転換でもある。勝負のために細部を捨て,二枚腰で構えた「戦略」で,単なる手技を離れる。医療が緻密繊細にますます収斂して行く流れは外科診療も例外ではないが,ダメージコントロールは局所ではなく大局を,部分ではなく全身を見据えて,チマチマしたテクニックを否定する。現代外科のminimal invasive surgery方針も,本来,皮切の大きさではなく,全身侵襲にこそ向けるべきだろう。
ダメージコントロールは,致命的な結果をあらゆる手段を講じて回避するという第二次大戦時の米海軍軍事方略を原点にするが,目的志向が明確で現在も合理的である。命を守るといういわば臨床における究極のリスクマネージメントを,一部の救急外科医の懐のなかだけに留めておくには余りに惜しく,今回,広く手術関連領域の方にも紹介したい。
Copyright © 2007, "MEDICAL SCIENCES INTERNATIONAL, LTD." All rights reserved.