症例検討 血液疾患患者の麻酔
巻頭言
須崎 紳一郎
1
1武蔵野赤十字病院 救命救急センター
pp.621
発行日 2017年7月1日
Published Date 2017/7/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.3101200890
- 販売していません
- 文献概要
蒼い血を流す傷口は お前だけが癒せる
(エリザベート/愛と死のロンド,ミヒャエル・クンツェ原詞,小池修一郎訳詞)
手術を指して“観血的”とはいうものの,外科医は血を見るのが好きだというのはとんでもない誤解である。外科医は出血が大の苦手であり,いかに出血させないか(血を見ないで進めるか)こそが腕の見せ所である。術野で突然噴出する動脈血は,一見派手だがコントロールはそれほど困難ではない。切った所がわかっているので,そのポイントだけをさっと押さえ(盲目的に鉗子を掛けてはいけない),素知らぬ顔で「あ,サクション頂戴」とさりげなく指示し,できればおやじギャグの一つでも飛ばすこと。つまり,術者は平静を装い,慌てる素振りを見せないのがたしなみ。声を荒げるようでは修行が足らない。これが静脈なら処理はむしろやりにくく,熱傷切除のような面からの出血はしばしば厄介。さらに外傷で出血傾向があり,門脈・肝後面下大静脈損傷と来た日には,術野はたちまち血の海と化し,術者自身のカテコールアミンと患者の血圧が反比例する。一方,ドライフィールド(無血野)なら外科解剖も明瞭で,よほど不慣れでない限り失敗はない。出血量の少ない手術は術後経過良好を予感させる。ね,だから外科医は血が嫌いなんです。
血液疾患は神経,内分泌と並んで内科の王土だ。外科医にはよくわからない領域で,とにかく,どうか血が出ませんように,出ても止まりますように,と祈るのみである。貧血では血の色が不気味に明るくサラサラするのも不吉だ。え,ステロイド使ってんの?何とか無事に手術が終わってほしいものだが。
Copyright © 2017, MEDICAL SCIENCES INTERNATIONAL, LTD. All rights reserved.