徹底分析シリーズ 脳:高次機能障害
巻頭言
内野 博之
1
1東京医科大学八王子医療センター 麻酔科
pp.545
発行日 2008年6月1日
Published Date 2008/6/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.3101100095
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- 文献概要
術後高次脳機能障害postoperative cognitive dysfunction(POCD)は,心臓手術に特異的でかつ高齢者に起こる神経症状という印象を受けていた。ところが,国際的なPOCDの研究より,高齢者は非心臓手術においてもPOCDが発生するという事実が明らかにされた。さらに,Monkら(Anesthesiology 2008 ; 108 : 18-30)が,非心臓手術後のPOCDの発生率を年齢別に解析したところ,POCDはすべての年齢に起こることも判明し,その特徴として,高齢者,知的水準の高くない患者および過去に脳血管障害の既往のある患者がPOCD発生率が有意に高く,退院時にPOCDを有する患者では1年以内の死亡率が有意に高いという衝撃的な事実も報告された。
病気を治療するための手術とその侵襲から生体を守るための麻酔管理が皮肉にも中枢神経の機能低下を誘発する一つの要因となり,さらには患者の生命予後にまで影響を及ぼす重要な役割を演じてきている。麻酔管理とは,どこまでの期間を表すのだろうか。もう一度その概念を考え直す必要に迫られているように思えてならない。
今回の徹底分析では,POCDを取り上げ,その病態,手術の影響,麻酔管理のあり方や予防の方略,さらには神経集中治療における脳機能維持にまで話題を広げた。今後,ますます問題となるこの病態をまず学び,知ることから始めたい。
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