巻頭言
常識
東 昇
1
1京大(ウイルス研究所)
pp.213
発行日 1972年10月15日
Published Date 1972/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425902934
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1971年11月11日,科学技術庁主管の国立防災科学技術センターの"がけ崩れ"の実験中に,15名の科学者が殉職するという惨事がおこつた。天災防止研究が人災の悲劇をもたらした。この種の偶発事故の際,"予想以上に"あるいは"予想を上まわつて"などと,よく報道される。この惨事の場合,予想をこえて,地すべりの速度が早かつた,予想以上に地すべりの地域が大きかつたと報道された。
予想とは,いつたい何か。それは"科学の常識"と関連しているといつてよいであろう。科学とは何か。これまで数多くの答えがあつた。「科学は常識のエッセンスである」という故中谷宇吉郎博士(物理学者)の説明はもつとも分り易いものである。およそ常識は,時代とともに常に変動するという特徴をもつ。昨日の常識は破られ,あるいは拡張されて今日の常識となり,今日の常識は明日の常識によりおきかえられる運命にある。科学的真理には,もうこれでおしまい,ということはない。極限とも思つた知識の,さらにかなたにより深い知識を求め究めてゆくのが科学である。
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