視座
常識の吟味
津山 直一
1
1東京大学整形外科
pp.749-750
発行日 1975年9月25日
Published Date 1975/9/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1408905234
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我が国の整形外科の水準は,欧米で行われている最新の治療がほぼ遜色ない成績で受けられるという意味ではそれほど劣つていないといえよう.医学のみならず応用科学の分野で日進月歩の世界のレベルにたちまち追いつく消化吸収力の旺盛さは日本人の特色とされるが,これをあながち模倣ばかりの徒と難じることは当を得ない.欧米との交流がなくなれば如何なる結果になるか過去の歴史が教えるからである.
西欧のルネッサンス的体験を経ず黒船に開国をうながされる近々一世紀少し前までの彼我の科学水準の差にさかのぼるまでもなく,近くは,第二次世界大戦前日木は医学に関する限り,国際的に一流であると自負していたにもかかわらず,大戦中欧米との連絡が杜絶し,一時的に交化的鎖国状態を余儀無くされ,終戦後蓋を開けて見た時の欧米ことにアメリカ医学と我々の間に経験した懸絶の甚だしさを思い出すからである.抗生物質,新しい麻酔学やショック対策,蘇生術を挙げるまでもなく無血野での無傷手技による手の外科,椎間板ヘルニア,頸椎症性脊髄症の存在,側彎症の手術的療法,生体内材料,人工関節置換術microsurgery等々今日の整形外科のトピックはいずれも我が国の力のみで開拓し得た分野といい得ない.この意味で我々は軽々に他人を批判する資格を持たないといわねばならない.
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