ワンポイントアドバイス
常識を働かそう
大久保 昭行
pp.403
発行日 1988年5月1日
Published Date 1988/5/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1543204481
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13歳の時から蛋白尿と腹痛を主訴として,数か所の病院を受診し,腎固定術をはじめ種々の治療を受けていた16歳の女性患者である.この患者の尿は,蛋白質反応は強陽性で,沈渣では脂肪膜につつまれた無数の小顆粒が認められた.血球成分は正常範囲内であった.尿の蛋白質濃度が500mg/dlと高濃度であるにもかかわらず,尿蛋白質電気泳動像は,アルブミン分画は微量で,α1とβの二つの分画が主であった.この患者の蛋白質濃度は日によって大きく変動し,蛋白質濃度が10mg/dl以下となる日もあったが,尿蛋白質が陽性の場合には,尿蛋白質電気泳動では同様の異常所見がみられた.
この所見を病的変化と思い込んでしまったために,患者の行為についての調査を怠り,異常蛋白成分の純化と抗体を作製して,異常蛋白質の性質を物理化学的に検討してしまった.最終的には患者が尿中に鶏卵を投入している,いわゆるMünchhausen症候群であることが判明したが,患者は腎生検を含む辛い検査を受ける一方,検査室では尿中の異常成分の検討のためにむだな努力をしてしまった.
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