やさしい目で きびしい目で・185
美しい角膜に魅せられて
片上 千加子
1
1ツカザキ病院
pp.737
発行日 2015年5月15日
Published Date 2015/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1410211347
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医師になって8年目の1983年,私は3人の子の母となっていた。実家から遠い滋賀県で,親の助けも得られず,内科医の夫の協力にも限界がある状況のなか,規定の産休のみで,常勤医としての勤務を続けていた。子供は可愛く,ともすれば育児重視になりがちな中,ひとたび非常勤になれば常勤に戻ることは不可能と考えたからである。当然,当直も男性医師と同様に回ってくる。当直の日には,夕方子供を保育園から夜間もOKのベビーホームへ預けなおして,勤務をこなした。そんな中,夫が留学することになり,夫は,私も米国で研究ができればと,自身の留学先候補のうち,“眼科の研究室があること”を条件に候補を絞り,私の受け入れを応諾したシンシナティ大学を選択した。
米国では,まず保育所を探し,3歳半と9か月の下二人を預け,上の子は小学校に入学。環境を整えて,研究生活をスタートした。シンシナティ大学眼科研究室のボス,Kao先生はコラーゲンをはじめとする細胞外基質の大家で,素人同然の私に実験手技を懇切丁寧に指導してくださった。最初に与えられた研究テーマは,「増殖性硝子体網膜症の発症機序」で,ウサギを用いた実験を,網膜硝子体を専門とするドクターとともに行った。この研究で論文を2つ投稿し,次の研究テーマは「角膜創傷治癒」。ウサギに角膜穿孔創を加え,創傷治癒過程におけるコラーゲンの代謝を調べるもので,研究に興味をもつ医学部の学生たちと一緒に楽しく取り組んだ。
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